『人を動かす(改訂文庫版)』D・カーネギー、創元社

とても有名な本ですが、「人を動かす」というタイトルが少しおこがましいなと感じて避けていました。 ただ、実際に読んでみると、もっと早く読んでおくべきだったと思いました。

内容はまったくおこがましいものではなく、人との向き合い方や自分自身の考え方など、納得できることばかり。 一方で、これまでの自分の発言やマネジメントを振り返ると、反省する点も非常に多かったです(恥ずかしい)。

また、約90年前に書かれた本ですが、今の時代にも通じることばかりで、マネジメントの本質は今も昔もあまり変わらないんだなと感じました。

特に印象に残った部分を、いくつかカテゴライズして紹介します。

人は論理ではなく、感情で動く

およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。
「人間の行動は、心の中の欲求から生まれる。だから、人を動かす最善の法は、まず、相手の心の中に強い欲求を起こさせることである。商売においても、家庭、学校においても、あるいは政治においても、人を動かそうとする者は、このことをよく覚えておく必要がある。これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、一人の支持者を得ることにも失敗する」

自分自身も感情が強いタイプの人間だと認識しているので、理解しているつもりではありますが、忙しかったり、何かに追われていたりすると、つい疎かになりがちだなと。 当たり前のことではありますが、相手の感情に配慮するための準備が足りなかったり、無意識に優先順位を下げてしまったりすることもあるので、より意識していきたいと思いました。

相手に関心を持ち、理解する

友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。
相手の言うことに異議をはさみたくなっても、我慢しなくてはいけない。相手が言いたいことをまだ持っている限り、こちらが何を言っても無駄だ。大きな気持ちで辛抱強く、しかも、誠意を持って聞いてやる。そして、心おきなくしゃべらせてやるのだ。
「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」
人を非難する代わりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、面白くもある。

自分が何を話すかよりも、相手にどれだけ話してもらえるか。これは本当にそのとおりだなと。 会食や面談でも、うまく話を引き出され、気づけば気持ちよく自分の話をしている、なんてことがよくあります。そういうときは、相手のほうが一枚上手で、コミュ力が(おそらくマネジメント能力も)高い人だなと感じます。

また、「相手の言うことに異議をはさみたくなっても…」の部分。 会議などで、テキストに書いてあることをそのまま読み上げていたり、すでに知っていることを聞いていたりするのがとても苦手で、つい話を遮ってしまうことがあります。 できるだけ効率的な会議にしていきたいという気持ちはあるものの、それによって相手が話しづらくなってしまっているのも事実だと思います。効率を求めることも大切ですが、相手が気持ちよく話せることも同じくらい大切なので、うまくバランスを取れるように意識していきたいなと思いました。

最後に、「相手に純粋な関心を寄せること」。個人的にはこれが一番難しい。 相手の話を聞いたり、立場を理解しようとしたりすることは意識してできるものの、純粋な関心となると意識するだけでどうにかできるものなんだろうか。 人の欠点が見えず、長所だけが見えるようになったら、人として仕上がっている。みたいなことを過去にどこかで聞いたことがありますが、まさにその世界線の話だなと。 まだまだ遠く及ばず、精進します。

正しさを押しつけず、相手を傷つけない

人の気持ちを傷つけることで人間を変えることは絶対にできず、まったく無益である。
我々は、自分の非を自分で認めることはよくある。また、それを他人から指摘された場合、相手の出方が優しくて巧妙だと、あっさり非を認め、むしろ自分の率直さや腹の太さに誇りを感じることさえある。しかし、相手がそれを無理やりに押しつけてくると、そうはいかない。
こちらに五分の理しかない場合には、どんなに重大なことでも、相手に譲るべきだ。百パーセントこちらが正しいと思われる場合でも、小さいことなら譲ったほうがよい。

日々の仕事や生活の中で、小さなことも含めて意見が対立したり、相手の考えが間違っているのでは、と思うことは誰にでもあるかと。 そのうえで、自分の意見を相手に押しつけ、議論や口論に勝ったところで、相手が納得していなければ意味がないですし、むしろ関係性が悪くなってしまうこともあります。 一方で、仕事では明らかに間違っていることを、間違っていると明確に伝えなければいけない場面もあります。 このあたりは、その時々で適切なバランスを取ることが大切なのだと思います。簡単ではありませんが、そういうコミュニケーションができる人でありたいです。

また、少しでも自分に非がある場合には、素直に認め、積極的に謝る姿勢も持ち続けていきたいなと思います。 年齢を重ねるにつれて、これができる人とできない人がはっきり分かれていくように感じるので、自分自身も気をつけていきたいです。

命令ではなく、自発性を引き出す

命令をせず、意見を求める。
人を説得して何かやらせようと思えば、口を開く前に、まず自分に尋ねてみることだ。「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか」と。
人から押しつけられた意見よりも、自分で思いついた意見のほうを、我々は、はるかに大切にするものである。すると、人に自分の意見を押しつけようとするのは、そもそも間違いだと言える。暗示を与えて、結論は相手に出させるほうが、よほど利口だ。

はい、これはめちゃくちゃおっしゃるとおりです。 たとえ自分の中では既に決まっていることであっても、それによって影響を受ける人たちに伝える際に、単に決定事項として伝えるのか、叩き台として意見を求め、一緒に考えたうえで決定とするのかでは、その後の結果やモチベーションは大きく異なると思います。 また、自分が望む結論にどうすれば相手自身でたどり着いてもらえるかを考えることも、とても大切だと。

当たり前ですが、一人ひとりが自分で考え、納得して、主体的に動ける。そんな組織が、持続可能性という観点では最も強いと感じています(短期的にはトップダウンのほうが強いこともあると思いますが)。

そのためには、何をやるべきかを伝えるだけでなく、なぜそれをやるのか、どうすれば相手が自分からやりたいと思えるのかまで、常に考えることが大切だと改めて感じました。

褒めて、励まして、可能性を引き出す

批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。
「私には、人の熱意を呼び起こす能力がある。これが、私にとっては何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすには、ほめることと、励ますことが何よりの方法だ。上司から叱られることほど、向上心を害するものはない。私は決して人を非難しない。人を働かせるには激励が必要だと信じている。だから、人をほめることは大好きだが、けなすことは大嫌いだ。気に入ったことがあれば、心から賛成し、惜しみなく賛辞を与える」
相手に美点を発揮させたければ、彼がその美点を備えていることにして、公然とそのように扱ってやるがよい。よい評判を立ててやると、その人間はあなたの期待を裏切らないように努めるだろう。

5つ良い点があっても、1つ悪い点があると、なぜか悪い点のほうが大きく見えてしまいます。不思議。 また、私は立場上、課題や悪い部分を見つけることが求められる役割でもあるため、どうしても指摘する機会が多くなってしまいます。 もちろん、改善すべきことを明確に指摘するのは重要ですが、1つ指摘するなら、その倍以上は良い点を伝えることを意識していきたいなと思いました。 一方で、NIKE創業者の自伝「SHOE DOG」では、あえて褒めないという考え方が書かれていたのも印象に残っています。 そう考えると、正解は一つではないんだろうなと。ただ、褒めて伸ばすほうが再現性は高いのかもしれません。 いずれにしても、一人ひとりに合った適切な負荷をかけながら、それぞれの可能性を引き出し、最大限のパフォーマンスを発揮してもらえるようなマネジメントを目指していきたいなと。

最後に、老子の言葉も印象に残ったので紹介します。

「川や海が数知れぬ渓流の注ぐところとなるのは、身を低きに置くからである。そのゆえに、川や海はもろもろの渓流に君臨することができる。同様に、賢者は、人の上に立たんと欲すれば、人の下に身を置き、人の前に立たんと欲すれば、人の後ろに身を置く。かくして、賢者は人の上に立てども、人はその重みを感じることなく、人の前に立てども、人の心は傷つくことがない」

謙虚であることを忘れてはいけない! 役職はあくまで役割の違いであり、人として偉いわけではない。 むしろ、高い役職に就くほど自分の言動が周囲に与える影響も大きくなるので、より一層謙虚であることを意識しなければいけないなと。 こういう考え方を自然に実践できる人は、とてもかっこいいと思います。

よく使われる言葉ですが、「人を変えようとする前に、まずは自分が変わる」。 本書には、この言葉を単なる概念としてではなく、具体的にどう実践すればよいのかが数多く書かれていました。 約90年前に書かれた本ですが、現代でも通用することばかりで、そういう意味では、時代に左右されない普遍的なマネジメントの本質を捉えているのかなと思います。 今後も定期的に読み返していきたい一冊です。